カーテンコールを終えて楽屋に戻る。
3時間という長丁場で重くなったガウンを脱ぎ、名入りのハンガーに裏返しで掛ける。
化粧前(楽屋で役者が座る鏡の設えられた席をそう呼ぶ)に座り4個の指輪を外す。
3本の首の飾り物を取り、指輪とそれとを手拭いで一まとめにする。
汗で身体に張り付く黒いルパシカを剥ぐように脱ぐと、次は腿まであるブーツだ。
最初は左脚。まずは足首から上の部分を丁寧に手繰り降ろし、脛から下にまとめる。そして椅子に腰掛けたまま足を空中に上げると左手で膝小僧を押さえ、右手でブーツの踵の部分を持ち、力を込めてゆっくり引き抜くのだ。
同じ要領で右脚も引き抜いたら、それぞれの中に箪笥用の乾燥剤の小袋を入れ幅広のゴムバンドで一まとめにする。
汗取りシャツやズボンを脱いだらいつもは作業着に着替えるところを今日は早々と私服になった。
ロビー交流会に参加するためだ。
火照って汗まみれだった身体も衣装を替えた途端に小ざっぱりした気分になれるのが不思議な位だ。
バラしの作業が始まった舞台の横を通りロビーに行くと、ぱっと見3〜40名位のお客様方が着席して待っていらした。
ポローニアスの豊泉先輩と私が近付くと皆さん笑顔で迎えてくださった。
3時間、集中して芝居をご覧になったお客様は、実はわれわれ役者よりもお疲れだとも思うのだが、更に30分余りの交流会にお集まりくださる。
なんとありがたい事かといつも思う。
できる事ならお一人お一人のお声を、言葉を、感想をお聞きしたい。
しかし限られた時間でそれは難し過ぎる望みだ。
結局我々の自己紹介と5、6名の方の感想やご質問で、瞬く間にお開きとなってしまった。
嬉しかったのは東演のアンサンブルや群舞をお褒めいただけたこと。
そして何よりも、目の前に、同じ高さの視線の先に、同じ空間で共に「芝居の時間」を過ごした皆さんの、満足感を湛えた表情を拝見できた事だ。
尾北演劇鑑賞会の皆さん、ありがとうございました!
クローディアス/能登剛
劇団東演「ハムレット」
作/W.シェイクスピア
演出/V.ベリャコーヴィッチ
2014年2月〜7月 全国公演